書 評
桜美林大学大学院国際学研究科老年学専攻(当時)の修士課程・博士課程の1期生である若松直樹氏(東京福祉大学)が、公認心理師・臨床心理士の研究者とともに本書を上梓した(編著)。第Ⅰ部総論 第1章「公認心理師・臨床心理士の役割」、第Ⅲ部 心理社会的介入(リハビリテーション) 第4章「認知思考的アプローチ」執筆。
本書は超高齢社会における、認知症を中心とした心の課題を抱える高齢者支援における標準的心理臨床マニュアルとして、各執筆者が自らの経験と最新の知見に基づいた実践に役立つ指針を示している。若松氏らはこれまでにも「心理アセスメント」「心理社会的介入」「家族支援」を、認知症の人の支援の三本柱として成書を3冊上梓している。本書においても身体機能および精神機能の評価、認知症の人の行動・心理症状(BPSD)の予防や改善のための介入法、家族介護者ほか地域で生活をともにする人々への支援まで、現場の実情に即した支援展開における実践的ハンドブックとなっている。
心理支援はすべての対人支援職にとって欠くことのできないアプローチであり、介入・支援の基本であろう。老年学学位プログラムに関わる他職種にとっても心理面への支援に関わる格好の手引書となっている。是非ともお手許におき活用を勧めたい。
(上出直人:北里大学 医療衛生学部)
書誌情報
著書名/認知症ケアのための心理アセスメントと心理支援 ―高齢者の心理臨床ハンドブック
著 者/編著:小海宏之(花園大学)、若松直樹(東京福祉大学)、川西智也(鳴門教育大学大学院)
出版社/金剛出版
価 格/3,800円+税
桜美林大学大学院・老年学学位プログラム現役教授陣である杉澤秀博先生、長田久雄先生、渡辺修一郎先生、新野直明先生、鈴木隆雄先生そして中谷陽明先生が編著された老年学大学院の教科書といえる待望の一冊が上梓された。
老年学を学ぶための羅針盤となる参考書を過去に立ち返ってみると、2002年に老年学大学院の開学と同時に柴田博先生が上梓された「8割以上の老人は自立している!」 → 当時の現役教授である柴田先生、長田先生、杉澤先生、野尻雅美先生、新野先生、渡辺先生が2007年に編纂された「老年学要論―老いを理解する―」 → そして本書の3冊が相当する。奇しくも2020年に創刊された桜美林大学出版会からの通算7冊目で、桜美林大学学祖清水安三が好んで口にした「学而事人」すなわち「学んだことを人のため、社会のために活かす」という精神と呼応するかのように、これまでの日本における学際的長期縦断研究から得られたファクトから学び、社会に活かすために相応しい内容といえる。
本書を手に取られ閲覧いただけば気付くのは、研究手法については今日的に重要性が増している“質的研究”が取り上げられ、“社会制度の変化”・“介護予防や地域包括システム”などが新規に加えられ、”介護問題“、”死生学“そして“教育老年学“が節立てされており人のために活かす実学としての老年学を学ぶのに最適といえるであろう。
(柴 喜崇:福島県立医科大学 保健科学部)
書誌情報
著書名/老年学を学ぶ―高齢社会の学際的研究-
著 者/編著者:杉澤秀博、長田久雄、渡辺修一郎、中谷陽明、監修:桜美林大学大学院・老年学学位プログラム
出版社/桜美林大学出版社
価 格/3,200円+税
元桜美林大学大学院老年学教授の野尻雅美氏は桜美林大学で5年間、老年学の研究をされ、定年退任後は介護老人保健施設に入職、14年間にわたり老年ケア医師として活躍されています。
これらの経験から、『老いに生きる 美へのQOL(人生の質)』を、医学のみならず、哲学、宗教、心理学などの視点から考察され、さらに高齢者の「余生も楽しく美しく」生きるための生活法、生き方について具体的に示されました。言うなれば、高齢者への、近々高齢者になる方々への指南の書であります。そこには類書にない特徴があります。
高齢者の価値は延命長命ではなくQOL(人生の質)であり、高齢者のケアも延命路線からQOL路線への変更です。QOL座標理論に準拠した結論です。
これまでのQOLの研究は、主として客観的な概念である科学的根拠(エビデンス)を求めてなされてきましたが、本書のQOL研究は主観的な概念である理論的根拠(直感、ひらめき、ナラティブ)を求めてなされています。デカルトの科学研究ではなく、カレルの人間研究です。この主観研究は、WHOのスピリチュアリティを取り入れたことで、大いなる飛躍をしたと述べています。筆者の言う主観研究イノベーションです。
高齢者の死については、病院死と自宅死はよく語られていますが、「施設死」は余り語られてはいません。近時の体験から「施設死」は、本人はもとより、家族にとっても、さらにスタッフにとっても、幸せ死、満足死、安寧死であり、「美しい死」であったと述べています。今後の看取りの有力な選択肢となるとの主張です。
本書は、高齢者施設でケアを担っている専門職の皆様、高齢者の保健・医療・看護に携わる方々、高齢者のご家族、そして高齢者・近々高齢者になる皆様方に、より良い支援や、よく生きるヒントとなることを確信し、広くお読み頂けることを祈念しております。
(長田久雄)
書誌情報
著書名/老いに生きる 美しい死へのQOL(人生の質)
著 者/野尻 雅美
出版社/青春出版社
価 格/1,200円+税
本書は、2020年3月に桜美林大学大学院老年学研究科を定年で退職された芳賀博 教授の編による著作です。芳賀教授は、日本における高齢者のヘルスプロモーション研究の第一人者です。本書では、芳賀教授のこれまでの研究の一つの区切りとして、その成果が集約され示されております。
「住民主体」という文言が、健康なまちづくり、福祉のまちづくりなどを指向した行政施策に盛り込まれております。では、この住民主体とは何でしょうか。それを具体的にどのように実現したらよいのでしょうか。その方法が具体的に示されていない場合、それは単なるスローガンに終わってしまいます。それどころか、「住民の責任」としてその問題の解決を住民に押しつけてしまうことになりかねません。
本書は、アクションリサーチ(参加型行動研究)という研究方法論を用いて、「住民主体」を理念にとどめるのではなく、研究者と住民が協働してそれを実現化させていく、そして他の地域に波及させていくための条件を導き出していくという、意欲的で示唆に富む内容を含んでおります。
本書の構成を拝見しますと、まずは、アクションリサーチの意義・必要性、その方法論的な特徴が整理されております。次いで、アクションリサーチの展開の要件である住民のエンパワメントの醸成、リーダーの養成、行政の役割、活動評価の手法が示されております。最後に、以上の要件を実際どのように醸成させていくか、その実践と評価の具体例がいくつか紹介されております。このようにアクションリサーチの基礎から現実への応用までを理解することのできる内容となっています。
アクションリサーチにおいては、仮説検証型の研究と異なり、研究者は対象を観察する側にのみいるのではなく、観察される側にもおります。つまり、研究者の意識・態度・行動がアクションリサーチの中でどのように変化・展開したのか、もう一つのストーリーも知りたいなと思いました。
最後に、芳賀教授には、老年学の実践者として「生涯現役」を目指し、アクションリサーチを継続させてください。そして、その成果を本書の続編として世の中に情報発信していただくことを希望します。
(杉澤秀博)
書誌情報
著書名/アクションリサーチの戦略 住民主体の健康なまちづくり
著 者/芳賀 博
出版社/ワールドプランニング
価 格/2,000円+税
本著は、老年医学、疫学、古病理学の分野において世界の第一線で活躍されている研究者である鈴木隆雄先生が、東京都健康長寿医療センター研究所、国立長寿医療研究センター研究所、桜美林大学大学院老年学研究科を通じて30年以上にわたり蓄積した膨大な老年学の研究成果をもとに、人生百年時代の生老病死のありさまを解き明かしたものである。
著者の背景から、老年学の分野の中でもとくに医学・生物学的な側面を中心に、不都合な真実から目を背けがちになっている国民に、超高齢社会の現実を直視させ、解決すべき課題をわかりやすく解説している。
読者が人生と老いに向かい合い、課題の解決に向けた何らかの行動を起こすきっかけになるものと確信する。
(渡辺修一郎)
書誌情報
著書名/超高齢社会のリアル
著 者/鈴木 隆雄
出版社/大修館書店
価 格/1,900円+税
著者の島影真奈美さんは現在、仕事と大学院での研究生活、義父母の介護という3足の草鞋を履きこなしている才女である。
本書は80歳代後半に、同時的に認知症を患った義父母の在宅介護を、同居もせず、公的な社会資源を巧みに活用しながら成功させた貴重な経験を綴っている。適宜にかなったノウハウに満ちた良書といえる。
しかし、説教的な臭みはみじんもなく、ユーモア溢れるエッセイの読後感を与えるのは、著者の文筆家としての日々の研鑽の賜物であろう。
このような成果をもたらしたのは著者の心底にある、罹っても失われることのない人生の先輩の尊厳に対する敬いである。また残されている能力や適応力(resilience)へのエンパワーメントへの意欲である。実母ではない老親のケアのキーパーソンと自分を位置づけている著者の優しさも印象的である。
(柴田博)
書誌情報
著書名/子育てとばして介護かよ
著 者/島影 真奈美
出版社/KADOKAWA
価 格/1,100円+税